著者は1946年生まれの会社経営者。
 あとがきによると著者は、病のために何度か病院に搬送され、いつか自分の人生も終わるのだと悟ったとき、自分の生きた証が何もなかったことに思い至り、存在を象徴できるようなものを残しておきたいと考えたそう。

 そして書いたのがこの本。自分の母親の親戚筋にあたる徳之島の女性の一生について書き綴ったものとなっています。

 主人公の名前はメト。時代は明治から昭和にかけて。幼い頃ハブに右手を咬まれ身体的ハンデを負いますが、家族や島民と共にたくましく生きていきます。
 持ち前の根性でそのハンデを克服して大島紬の優れた織り手となりますが、時代は機械織りへと移ろい手織りの賃金が暴落。
 そうかと思えば、ようやくめぐり会って結婚した相手との間に何度か授かった命は、いつも不幸に見舞われてことごとく失ってしまいます。当時はよくあることだったのかもしれませんが、親としての悲嘆はいかばかりだったでしょう。
 さらに、ようやく構えることができた徳之島の家が洪水にあい、夫には先立たれ・・・。

 物語はこのように展開していきますが、名もなき人間の一代記というものは、読んでいるうちに自分がその人になりきって、その人生をあたかも自分のそれのように感じながら追体験できるので、とても充実感があります。
 作り話の映画などを観るよりずっとリアルな感じです。

 蛇足としてこの本の弱点を2つ述べれば、徳之島が舞台ではあるものの、内容は「徳之島物語」というよりも「向井(結婚して榊に改姓)メト物語」であること、そして、文体や表現に著者独自の巧みさやもう一ひねりがほしかったこと――でしょうか。・・・生意気言ってスミマセン。
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